微彫
微彫とは印材などの滑らかな石に肉眼でようやく見えるぐらいに小さな文字を彫ったもののことで、中国の伝統芸術の一つです。微彫は小さいものに字や絵を描いたり彫刻したりする時には筆の代わりに刀を使います。微彫は中国伝統美術品の中でも最も精密な工芸品です。象牙、竹や髪などに米のような彫刻する作品は顕微鏡や拡大鏡を使わなければ彫刻されたものを見ることができません。そのため、「絶技」と呼ばれています。彫刻されている部分の面積が小さいので達筆さと巧みな技巧が必要とされます。
中国の微彫は歴史が長く、商朝(前1600年―1046年)の時代の甲骨文(亀甲・獣骨などに刻まれた殷代の文字)の中に小さな彫刻が発見されました。広く知られている王叔遠の『刻舟』は中国の歴史上、微彫で描かれた経典です。篆刻辺款(印章の側あるいは後に彫る文字や題記を指す)芸術が微彫芸術の発生と発展の基礎と言われています。明清時代以降、多くの詩人や小説家が印章に詩を作ったり、絵を描いたりしました。寿山石(じゅうざんせき)が篆刻の印材になると、寿山石の微彫芸術が生まれました。
そして1960年代になると、微彫に拡大鏡など先進科学器具が使われるようになり微彫芸術はまた別の新しい芸術になりました。作品の文字はいっそう小さくなり、内容も豊かになりました。
微彫は特に材料の選択が重要です。石材は混じりけのないもので、砂やひび割れがあるものは適していません。使う刀も特別で先のとがっている鋭い刀でなければなりません。また達筆さも必要とされます。そして彫刻を始める前には精神を集中させ一気に彫上げるくらいの気合が必要です。また彫る際には気持ちを落ち着け焦ってはなりません。そうでないと字体と刀使いが一体とならないからです。