ヤルツァンポ大峡谷
チベットのヤルツァンポ大峡谷は、メンリン県(米林県)北部の大渡カード村(標高2880メートル)、メトク県(墨脱県)南部の巴昔カード村(標高115メートル)へと至る全長504.9キロ、平均深度2268メートル、最深部の高低差6009メートルにも及ぶ、世界一の大峡谷です。
大峡谷を流れるヤルツァンポ川(ブラマプトラ川)はヒマラヤ北部を源流とし、ベンガル湾へとつながる高低差世界一の河川で、チベット高原の流域だけでも9箇所もの断崖で分断された険しい山岳地帯を流れ下っています。インド洋の温暖気流の影響を受け非常に水量が多く、大峡谷南部の降水量は年間4000ミリにも達し、上流側の北部も年間1500~2000ミリに達します。そのため大峡谷一帯は湿度が高く、うっそうとした森林が生い茂り、その過酷な地理的条件ゆえに、ごく一部の住民を除いて足を踏み入れる者のいない場所でした。現在もなおヤルツァンポ大峡谷はチベットで最も神秘的な秘境であり、世界的にも稀有な自然環境に多種多様の原生動植物が生息しています。
ヤルツァンポ大峡谷のスケールの大きは、大峡谷として世界的に知られたアメリカアリゾナ州のグランドキャニオンと比較してみるとイメージしやすいかもしれません。全長は50キロメートルほどしか変わりませんが、断崖部分の平均深さは約2倍、最深部の高低差は3倍を超えます。
しかし雨が極端に少なく、荒涼とした荒々しい風景が広がるグランドキャニオンと、みずみずしく生命感溢れる大自然の絶景が広がるヤルツァンポ大峡谷は全く対極の魅力を持っているといえます。
ヤルツァンポ大峡谷の生態系は、内陸でありながら数千万年もの間、険しい断崖によって隔絶されてきた、世界でも特異な環境に置かれてきたため、ガラパゴスやマダガスカルに匹敵する固有種生物の宝庫になっています。
近年ようやくこの秘境を訪れることが可能となり、雪山、氷河、草原、滝、原生林などの雄大な大自然が競演する、唯一無二の絶景と、古くからこの地で暮らすロッパ族、メンバ族などの少数民族の素朴な文化に触れることができるようになりました。
ヤルツァンポ大峡谷の大半は今も依然として未開発の状態であり、安全に観光客が立ち入れる場所は限定されておりますが、充分にご満足いただけるほどの魅力に満ちています。